黒猫あんみつ

タイトル通り黒猫とあんみつが好きです。

『闇の奥』 ジョゼフ・コンラッド

すぐ読めると思って読み始めて、3ヶ月くらい読むのにかかった。これはおもしろかった。マーロウという語り手が回想形式で、クルツという男について語る。コンゴの奥地にはクルツという仕事ができる男がいて、象牙をたくさんとっている。マーロウは次第にクルツという男に魅かれていく。さまざまな困難を乗り越えて、クルツに会ってみると、彼は病気でもう命が尽きようとしていた…。このようにあらすじを書くとまるで冒険小説のようだが、まあ、冒険小説であると言っていいのかもしれない。だが、マーロウの回想はずっと内面に向き合っているので、きわめて文学的で、ときに詩的で、なかなか硬質だと思う。原文はどうかわからないが、中野好夫さんの訳が良いのだと思う。

 

『君たちにはわからない。どうしてわかるものか。堅い動かない舗道を踏み、いま励ましてくれているかと思うと、はやもうつっかかってくるあの親切な隣人たちに囲まれ、いわゆる肉屋とお巡査さんとの間をすまして歩いている君たち、そして醜聞と絞首台とと癲狂院との神聖な恐怖の中で暮らしている君たちに、ーーどうしてあの原始さながらの土地を考えることができてたまるものかーーそこはただ自由奔放な人間の足だけが、孤独と静寂とを越えて彷徨いこむ国なのだ、ーー完全な孤独、お巡査さん一人いない孤独ーー完全な静寂、世間の輿論とやらを囁いてくれる親切な隣人の声など、一つとして聞かれない静寂、ーーお巡査さんも隣人も、それはほんのなんでもないものかもしれぬ。だが、これが文明と原始との大きなちがいなのだ。それらがいなくなれば、あとはめいめい生まれながらの自分の力、自身ひとりの誠実さに頼るほかなんにもないのだ。

 

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